五臓からひもとく精神・神経症の諸症状への漢方治療
- 備忘録 東洋医学
- 7月16日
- 読了時間: 3分
人間の精神を主るのは脳である。そして喜怒哀楽を含めた精神の働きを心(こころ)という。東洋医学では心を神とも称し、心は神の宿る場所としてとりわけ重視されている。しかし東洋医学で特徴的なことは、こころの働きを心肺脾肝腎の五臓に振り分けた点にある。こころは五臓の共同作業によってひとつの統一体になるわけである。五臓は身体の一部であり、東洋医学ではその成り立ちにおいて心と身体が分けることのできないほど、密接につながっていると考えられている。とりわけ心は意識の中心であり、五臓すべてを統括する司令塔であるとして重視されている。心は神なのだから。
ところが実臨床になると、心の弁証が貧弱に感じるのは私だけであろうか。心の不調によっておこる症候は動悸、不眠、不安など限られており、用いられる処方も天王補心丹、炙甘草湯、酸棗仁湯など限られた処方しか浮かばない。心は象徴であり、心だけの異常で様々な症候が生まれるので無く、心は、肺肝脾腎との関係性の中で機能する。背景因子としてとらえるのがいいと思う。
脾は後天の元気の元として生命エネルギーを常に補充する臓であるから、元気の下支えである脾の存在は大きく、心肺肝腎など他の臓器に栄養を届ける作用がある。脾が弱ると心が弱り心脾両虚の帰脾湯が用いられ、脾陽を助ける人参湯は腎陽も鼓舞する。また肝の働きを助ける疏肝の処方にも、しばしば脾を補い巡らす生薬が含まれている。脾が虚するとくよくよと思い悩みやすくなり、精神の不調が長引く原因ともなる。
肺の異常はため息を生み、悲しみと関係する。精神の健康のためには、深いゆったりとした呼吸が不可欠だが、実際の処方としては麦門冬湯など限られた処方しかない。肺を元気にする近道は脾を補うことで、六君子湯や補中益気湯は免疫力や気力を高め、悲しみを乗りこえる力を与える。脾を補う処方は肺を補う作用があることも知っておきたい。
腎は身体の根幹であり、精を蔵する。腎が充実すると心は安定し、腹が据わった状態になる。逆に腎虚は恐れや怯えを生じやすくする。腎は下元の火として心と協力し、全身の陽気を支える。腎は先天の元気を主り、年齢と共に消耗していくものなので、加齢にともなう精神の衰えにも、補腎の方剤の出番がないか、常に吟味しておく必要がある。
そして、情動を主るとされる肝の影響はストレス社会で抑圧された現代社会においてとりわけ大きい。肝には心を伸びやかにする疏泄の働きがあり、柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝乾姜湯、四逆散、抑肝散、加味逍遙散など日常診療で使われる多くの処方がある。肝の疏泄の異常はしばしば脾にも影響を及ぼし食欲不振や、過食、下痢、便秘を引き起こす。
以上のように東洋医学で精神を整える際には、心だけで無く五臓全体の補瀉のバランスを考慮し、処方を選択することが重要である。

コメント