冷えを問う―生薬からひもとく冷えの漢方治療―
- 備忘録 東洋医学
- 9月8日
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更新日:11月9日
冷え性という病名は西洋医学には存在しませんが、東洋医学では全身の代謝の低下を示すものとして重要視されている概念です。
冷えの概念を東洋医学的に分類してみました。
脾気虚による肌肉の痩せからの冷え
衛陽の虚による冷え
脾と肺の陽虚による冷え
腎陽虚による冷え
血虚による冷え
瘀血による冷えとのぼせ
肝気鬱結による冷えとのぼせ
以下順番に解説していきます。
1.脾気虚による肌肉の痩せからの冷え
脾気虚とは胃腸の消化吸収の力が弱くなっている状態です。脾は肌肉を主ると言われているように脾虚があると皮下脂肪や筋肉が痩せて細くなってしまいます。皮下脂肪がないと寒さに弱くなり、筋肉が細くなると熱を作れなくなり冷えの原因となります。
人参を含む六君子湯や補中益気湯などの補気薬を用います。
2.衛陽の虚による冷え
寒さによる体表の冷えに対しては桂枝を使って末梢の循環をよくします。桂枝は末梢循環を改善する作用があり、実際には枝ではなく、樹皮である桂皮を用いることが多いです。桂皮は、体表だけでなくお腹も温める作用があるのでお腹も手足も冷える人には好都合の生薬です。エキス剤では桂枝加朮附湯が代表処方です。
3.脾と肺の陽虚による冷え
つぎに大切なのがお腹の冷え、お腹が冷えると全身が冷えます。お腹(脾)を強力に温める生薬は乾姜です。乾姜はまた肺も温めます。乾姜の辛みは粘膜の刺激が強いので甘草と合わせた甘草乾姜湯が基本処方となり、脾と肺が冷えて薄い唾液や痰を大量に吐く時に用いられます。脾陽虚の代表処方は人参湯で、冷えて疲れた胃を鼓舞して食欲を増し、下痢軟便を治します。先日肺炎をおこした患者さんが食事が食べれなくなり抗生物質と主に人参湯をお出ししたところ食べられるようになり、無事肺炎も治癒しました。苓姜朮甘湯は脾胃を温めることで腰を温め、方中の白朮茯苓で腰の周りに停滞した水を除くことで腰の冷えや重さを治します。大建中湯は乾姜、山椒、人参、膠飴からなる処方で乾姜、山椒の辛みを膠飴で和らげて腸管蠕動を鼓舞します。
4.腎陽虚の冷え
加齢により先天の元気の元である腎の陽気が衰弱し腎陽虚という病態をつくります。
腎陽虚になると手足が冷えたりむくんだり、腰が冷え、頻尿になり、月経周期の乱れを引き起こします。腎の陽気を鼓舞する生薬は附子です。代表処方は八味地黄丸や牛車腎気丸になります。腎の陽気はかまどの火に例えられますが、薪がなければ火は燃えません。随って腎陰を補う、地黄、山茱萸、山薬などの生薬を入れることが重要になります。また腎陽が虚すると身体の中の水液の巡りが悪くなり、めまいやむくみ、下痢を起こします。このような時に用いられるのが温陽利水の真武湯です。
さらに冷えが強くなり、血圧が下がり、冷や汗が出て、下痢もして、脈が触れにくいようなショックに近い状態のときに用いられるのが甘草乾姜に附子を組み合わせた四逆湯です。
5.血虚による冷え
さて、女性には冷えがつきもので、女性の冷えに欠かせない生薬が当帰という生薬です。
当帰は末梢血管を拡張して、身体のホルモンバランスを整える作用を持ち、月経を調えて冷えを治します。代表的な方剤は当帰芍薬散です。この処方に桂皮や附子などの生薬を組み合わせてさらに冷えを改善する効果を高めることができます。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯は手足の冷えを治し、しもやけを治す効果のある処方ですが、お腹や鼠径部の冷えや痛みを改善することができます。また当帰を含む表裏双解の処方として五積散や当帰湯という処方もあります。
6.瘀血による冷えとのぼせ
血の巡りが悪くなった病態を東洋医学では瘀血と言いますが、瘀血を治す生薬の代表は牡丹皮という生薬です。処方としては桂枝茯苓丸になります。子宮筋腫に対する処方として有名ですが、生理前ののぼせや肩こりに効果を発揮します。その他ホルモンバランスを整える温経湯は不妊症にもよく用いられ、芎帰調血飲という処方は産後の諸症状を治します。冷えのぼせに対しては、瀉下剤である桃核承気湯や通導散などを用います。
7.肝気鬱結による冷えとのぼせ
東洋医学では肝臓は全身の臓器に血を分配するという働きがあり、ストレスがあると、この分配の機能が衰えると冷えのぼせの原因となります。四逆散や加味逍遥散は肝気の鬱滞をとして横隔膜の緊張を緩め、横隔膜で分断された気の流れを改善して冷えのぼせを治します。
まとめ
冷え症の治療においては上昇中焦下焦のうち、中焦と下焦の冷えが重要です。
中焦の冷えにおいては肺脾の裏寒を治す甘草乾姜の対薬を中心に処方を考えます。
下焦の冷えにおいては、腎陽虚の治療を考える。腎陽虚の治療においては補陽の生薬だけでなく、地黄、山茱萸、山薬の補腎陰の生薬が大切です。補陽の為には、如何に補陰するかも念頭におくとよいと思います。
女性の冷えにおいては当帰、川芎の補血活血を念頭に置き、さらに血流の停滞が進んだ場合は瘀血の治療も考えておく必要があります。
肝欝気滞は全身の気機の阻滞を引き起こすため、血の分配が障害されることによる冷えを生じます。ここにおいても柴胡などの疏肝の生薬とともに肝血を補う当帰などの補血薬が重要となります。
桂皮、附子、杜仲、淫羊霍、鹿茸などの補陽薬も補陰があってこそ効果を発することを忘れずに冷えの治療戦略を考えてゆきたいと思います。

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