口の乾きと益胃湯について
9月23日
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82歳女性。舌の痛みと口の乾き、食欲不振で来院されました。歯肉の炎症を繰り返し、手術が必要だと言われている。抗SS-A・SS-B抗体が高値で、西洋医学的にはシェーグレン症候群です。本稿はこの一例を通して、「証に随う」とは何かを考えます。
脈は沈細、舌は暗い紅色でやや胖大、亀裂があり中部の苔が脱落。臍下不仁もあり、肾気陰虚が疑われます。シェーグレン症候群に八味丸が頻用されることとも矛盾しません。しかし、陰虚だから八味丸、陰虚だから地黄という固定観念は、いったん外すべきです。
陰虚とは血・津液・精のいずれかが不足した状態です。本例で足りないのは津液であり、臓腑でいえば肺胃の陰虚にあたります。皮膚も肺も胃腸も一枚のシートでつながっており、唾液腺もまた上皮組織として肺胃に帰経します。
肺胃に帰経するのは沙参、麦門冬、玉竹、黄精など。処方は麦門冬湯、沙参麦門冬湯、益胃湯、養胃湯です。ここに地黄は入っていません。ただし本例は自己免疫による炎症性疾患で、唾液の減少が口腔の自浄を妨げて歯周病を難治にしています。滋潤だけでは炎症は鎮まりません。
そこで地黄です。熟地黄は陰血と肾精を補い、乾地黄はさらに清熱涼血に働きます。補陰と抗炎症を兼ねるこの一味があるからこそ、地黄を含む益胃湯が本例の方証相対となります。煎じは胃にしみこむように飲め、2週間で真っ赤だった歯肉がピンク色に戻り、手術は不要になりました。
方証相対は、症候と処方のカード合わせではありません。現代医学の病態生理を踏まえて証を読み解き、生薬の薬能を生かしきる処方を組み立てること。それが証に随うということだと考えます。

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