嘔気・嘔吐を問う

今回は嘔気嘔吐の漢方治療について考察します。嘔気（悪心）とは、胃から胸や喉にかけて起こる吐き気の感覚を指し、嘔吐は実際に内容物を吐き出すことを指します。嘔気・嘔吐は中枢性と末梢性に分類され、中枢性は脳や神経の問題で、末梢性は胃腸など消化管の問題に起因します。東洋医学では、嘔吐を胃の気が逆行する「気逆」と捉え、原因を胃寒、胃熱、胃陰虚、肝胃不和、食べ過ぎ（傷食）などに分類します。それぞれの病態に応じ、胃を温める生姜・乾姜、胃気を降ろす半夏、脾胃を補う甘草や人参などを適切に配合した漢方薬を選びます。ただし、甘草は脾を補いますが、嘔吐治療には甘味が逆効果となる場合があるため注意が必要です。嘔吐治療の基本処方には、半夏、生姜を含む小半夏湯、半夏厚朴湯、小柴胡湯などがあり、症状や病態の特徴に応じて適切な処方を使い分けることが重要です。その他、胃内に停滞した水分（胃内停水）が原因であれば五苓散、冷えが原因の場合は呉茱萸湯や人参湯、食べ物の停滞が原因の場合には大黄甘草湯などで便通をつけることを考慮します。さらに、嘔吐が慢性化し、胃腸が冷えて衰弱している場合には大建中湯などで胃腸機能を強化します。嘔気嘔吐の処方展開を考えるとき脾の問題があれば甘草を、胃の問題には生姜を意識して処方を組み立てることも有用だと考えます。