第6回腹証奇覧・奇覧翼を読む 桂枝加黄耆湯他
- 備忘録 東洋医学
- 6月20日
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更新日:11月9日
今回の処方は
桂枝加黄蓍湯、黄蓍桂枝五物湯、黄耆桂枝苦酒湯、防已黄蓍湯、防已茯苓湯、補中益気湯
桂枝加黄耆湯の図は和久田叔虎の図です。
まず生薬としての黄耆の作用をふまえながら叔虎の腹診図を読み解いていきます。黄耆は汗腺の機能を高め、皮膚を引き締め、皮下の水滞を取り除き、皮膚に栄養を与える作用があり、桂枝湯に黄耆を加えたのが桂枝加黄耆湯です。桂枝湯には『解肌』といわれるように、営血から体表(衛分)に栄養を届け、皮膚からの代謝物を水とともに営血に戻す作用があり、黄耆は特に後者の働きを助けます。叔虎の腹診図をみますと、全身の毛穴に沿って皮疹のような病変が描かれています。実際このような患者さんが黄耆建中湯で快癒したことがあります。鎖骨の缺盆の凝滞という表現がありますが、缺盆は静脈角に相当し、リンパ液という濃い水の流れが、血液に戻ってゆく場所です。かえってくる水にとってもっとも大切な場所の凝滞を記載している点、私は叔虎の黄耆に対する並々ならぬこだわりを感じます。また特に皮疹は上半身に多いとし、心下の脾胃の部分の抵抗は脾気の機能異常を示しており、肺のある胸部には皮疹をまんべんなく描画しています。これは肺脾の機能低下による水の停滞を意識させます。おそらく黄耆剤の使い手としては叔虎は文礼を凌駕していると思います。それほどみごとな腹診図であると思います。
黄蓍桂枝五物湯、この処方は桂枝加黄耆湯から脾を守る甘草を抜き、温裏発散の生姜を倍加しています。四肢の痺れに対する処方なのですが、脾虚はないため、甘草を抜き、営血から衛気のある体表に向かって気の推動作用を助けるために生姜を倍加しています。甘草は気をとどめる作用もあるため処方の切れ味をだすため抜いているのかもしれません。一方で陰血を補う芍薬、大棗は残し、血痺というように血の供給も怠らない処方構成としています。
次は水太りの有閑マダムのイメージで有名な防已黄耆湯です。風湿、風水という肌表の水の停滞を治す処方です。そのため水太りを治す処方と言われています。大塚敬節先生は叔虎の文章を読んで有閑マダムにイメージにつながったと述べています。
最後に補中益気湯について述べます。これは最も有名な補剤といえるでしょう。金元四大家のひとり李東垣の処方です。虚労の名方として、叔虎の時代にはすでに庶民の間でも有名で、何病にも補中益気湯という風潮があり、後世方の処方でもあり、古方派からは揶揄されることが多かったようです。叔虎も古方を重んじた医師ではありましたが、補中益気湯の効果は認めており、「さりとては小賢しく巧みなる方なり」と述べているのは当時の風潮を感じさせて面白いです。
この処方は開封に包囲され、日々元軍からの攻撃にさらされた人たちが高熱を出してバタバタとなくなっていった疫病に対して作られた処方です。長い間包囲され、心身ともに疲弊して脾虚に陥った人々の脾気を人参、黄耆、甘草で補いながら、柴胡升麻で気を持ち上げ、同時に清熱祛邪をはかった処方です。脾気が下陥することで『陰火』が生じる病態は古来議論の絶えないところです。また日本漢方では小柴胡湯の虚証という表現がされ、叔虎の腹証図においても脾虚と同時に、胸脇部の抵抗や痞えを表現しています。なかなか複雑な処方なのですが、本編では当時の様子を思い浮かべながら、自分が李東垣のように戦火の中にいる医師であるとイメージして補中益気湯という処方の成り立ちを考えてみました。続きは是非本編をお読みいただけたらと思います。

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