第16回腹証奇覧・奇覧翼を読む 当帰芍薬散他
- 備忘録 東洋医学
- 7月30日
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更新日:11月9日
今回の処方
当帰芍薬散、芎帰膠艾湯、猪苓湯、調気飲、黄連阿膠湯、甘麦大棗湯、金匱甘草湯
今回は、血虚の処方からはじまります。
血虚とは血の栄養作用の不足した状態で、顔色不良、口舌が淡白、爪、毛髪、皮膚につやがなく、ふらつき、目のかすみ、四肢の痺れなどをきたす病態で、当帰、芍薬、川芎、地黄からなる四物湯が代表処方です。当帰芍薬散は四物湯の処方構成の内、当帰、芍薬、川芎の補血の生薬を含み、それに利水作用を持つ沢潟、蒼朮、茯苓を加えた処方で、血虚に水の停滞が加わった処方です。もともと婦人科系の痛みに対して用いられる処方のため鎮痙鎮痛の芍薬は比較的多くの量を用います。文礼の腹診図は実に的確に当帰芍薬散の女性を表しています。すなわち、柳のように痩せ型の女性で、下腹部に抵抗があり、色白で、肌は水滞のためみずみずしく、冷えのある女性です。衝脈の成長がまだ未熟な女性に多く、初潮から20代前半の女性に多くみられます。
さて血虚水滞の当帰芍薬散と、瘀血の代表処方である桂枝茯苓丸を比べてみます。桂枝茯苓丸は血の停滞が主に見られるため、当帰芍薬散より年代は高く30代以降に多く見られ、みずみずしさを失って、肌に色がやや黒くくすんで、シミなどの色素沈着がみられて、瘀血のため下腹部の抵抗圧痛が強く表れます。
四物湯は血を補う当帰、芍薬、川芎に加えて補血と同時に補陰、補腎する地黄が加わった処方です。陰血の不足が顕著になり、肌はくすみ、爪や毛髪につやがなくなり、目のかすみ、ふらつき、四肢の痺れなど血虚の症候がそろってきます。腹証のおいては下腹部の表面は一見軟らかいのですが底の方に抵抗を触れます。黄連解毒湯を加えた温清飲になると、熱のため更に陰分がそがれて黒ずんで枯燥した、がさがさの皮膚になります。
四物湯に甘草、阿膠、艾葉を加えたのが芎帰膠艾湯で温性の止血薬である阿膠艾葉が加わるため、過多月経や不正出血に対して血を補いながら止血する処方となります。阿膠はロバの膠で動物性の生薬であるため陰血を補う力は更に強くなり、陰血不足で月経不定の女性にとって大切な生薬となります。また艾葉には温経散寒止血作用と同時に痒みを止める作用もあるのが特徴です。黄連阿膠湯は、少陰病の瀉心湯というように、清熱解毒の黄連黄芩が君薬になりますが、熱によって消耗した陰血を補うために阿膠や鶏子黄を用いています。症候としては陰が虚して熱が盛んとなった病態を反映して、のぼせ、不安、不穏、不眠などの症状が現れることがあります。熱病で消耗したときの卵がゆは、脾にやさしく補陰する養生食となるようです。
最後に甘麦大棗湯を紹介します。急迫を治す甘草が主薬となりますが、日常生活でもなじみの深い、甘草、小麦、大棗からなる簡素な処方です。江戸時代にも憑きものがついたような『狂』なる病に盛んに用いられました。現代でもパニック障害など、精神が急に不安定になった時に用いられる処方です。目標は精神の激しい緊張で、それを反映して腹壁が緊張している場合がありますが、総じてお腹は軟らかい場合が多いと感じています。シンプルな処方なのに時にすごい効果をしめします。典型的な症例として漢方の大家の大塚敬節先生が初学のころに経験した症例を提示していますので、是非参考にされてください。漢方処方には甘草、生姜、大棗の組み合わせを用いることが多いのですが、これらの生薬は、脾を補うとともに、脳や自律神経を滋養する栄養療法の側面があるのではないかと考えています。

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